「学校でタブレットを使うようになったけれど、本当に学力は上がっているの?」
「紙の教科書の方が、勉強した内容を覚えやすいのでは?」
こうした疑問を感じている保護者の方も多いのではないでしょうか。
学校教育では、GIGAスクール構想によって児童生徒に1人1台の端末が整備され、デジタル教材の活用が進んできました。
ところが、2026年10月22日、文部科学省の検討会議で注目すべき方針の素案が示されました。
2030年度以降に導入される新しい教科書は、紙とデジタルを組み合わせた「ハイブリッド型」を基本とし、完全デジタル型は一部の学年・教科に限定するというものです。
これは、デジタル教科書が失敗だったという意味なのでしょうか。
今回は、宮城県で学習塾を経営し、日々子どもたちの学習を指導している立場から、今後の教科書の変化と学力への影響について考えていきます。
1. デジタル教科書は失敗だったのか?
最初に結論をお伝えします。
今回の方針は、デジタル教科書の失敗を認めたものではありません。
むしろ、紙とデジタルのそれぞれの長所を生かし、学習効果を高めようという方向性です。
これまで学校では、タブレット端末を使った学習が急速に広がってきました。
動画を見たり、英語の音声を聞いたり、インターネットで調べたりすることが、以前よりも簡単になりました。
一方で、教育現場では次のような疑問もあります。
- タブレットで学習すると集中力は続くのか。
- 画面で読んだ文章は、どの程度記憶に残るのか。
- 動画を見るだけで理解したつもりになっていないか。
- 手で書く機会が減っても、学力に影響はないのか。
デジタル化が進んだからといって、それだけで学力が向上するわけではありません。
大切なのは、何を使って勉強するかではなく、どのように学ぶかです。
2. 2030年度から教科書はどう変わる?
文部科学省が2026年10月22日に示した指針の素案では、紙とデジタルを組み合わせた教科書を中心とする考え方が示されています。
具体的には、次のような方向性です。
小学1年生〜4年生
紙を中心とした教科書を使用し、完全デジタル型の教科書は認めない方針です。
この時期は、文字を読み、書き、計算するなど、学習の土台を形成する大切な時期です。
小学5年生〜6年生
紙とデジタルを組み合わせながら、外国語や音楽、図画工作など、一部の教科では完全デジタル型も認める方向です。
中学生
国語や数学などは紙を中心にデジタルを補助的に活用する形が基本となります。
一方、外国語や音楽、美術、技術分野などでは、完全デジタル型が認められる可能性があります。
高校生
外国語や情報、芸術の一部、専門学科の教科などで、デジタルを中心とした教材の活用が想定されています。
なお、これらは2026年10月時点の素案であり、最終決定ではありません。
3. なぜ紙の教科書が重視されるのか?
僕が特に注目しているのは、紙を使って学ぶことの意味です。
例えば、数学の問題を解くとき。
問題文を読み、図を書き、途中式を整理しながら答えを導き出します。
この過程では、単に答えを知るだけでなく、どのように考えればよいのかを学んでいます。
国語でも同じです。
文章を読み、大切な部分に線を引き、前後の内容を確認しながら筆者の考えを理解していきます。
紙の教材は、こうした学習を進めるうえで使いやすい特徴があります。
ただし、紙を使えば必ず記憶力や読解力が高まるというわけではありません。
学習効果は、教科や課題、指導方法によっても変わります。
重要なのは、子ども自身が考え、書き、理解を確かめる機会を十分に確保することです。
4. デジタル教科書にも大きなメリットがある
ここまで紙の重要性について説明してきましたが、僕はデジタル教材にも大きな可能性があると考えています。
特に英語では、その効果を実感しやすいと思います。
例えば、英単語の発音です。
紙の教科書では発音記号などを確認できますが、デジタル教材なら実際の音声を繰り返し聞くことができます。
理科でも、実験の様子を動画で確認できれば、文章や写真だけでは理解しにくい現象をイメージしやすくなります。
数学では、図形が動く様子を確認することで、理解を助けられる場合があります。
また、文字の拡大や読み上げ機能などは、学習に困難を抱える子どもたちの支援にも役立ちます。
つまり、デジタル教材そのものが悪いわけではありません。
紙では難しいことをデジタルで補い、デジタルだけでは不十分な部分を紙で補う。
これが今後の教育に必要な考え方ではないでしょうか。
5. 塾の現場で感じる「わかったつもり」の怖さ
学習塾で生徒を指導していると、気になる場面があります。
それは、説明を聞いた直後には理解できていても、実際に一人で問題を解こうとすると手が止まってしまうことです。
例えば、数学の解説を聞いた生徒に、
「わかった?」
と質問すると、
「わかりました!」
と答えることがあります。
ところが、同じような問題を解かせると、途中でわからなくなってしまう。
これは決して珍しいことではありません。
説明を理解することと、自分で問題を解けることは違うからです。
デジタル教材では、わかりやすい動画や解説を見る機会が増えます。
もちろん、それ自体は素晴らしいことです。
しかし、動画を見ただけで勉強を終えてしまえば、理解したつもりになる可能性があります。
これは紙の教材でも同じです。
解答を読んで納得するだけでは、十分な学習とは言えません。
本当に大切なのは、解説を見た後に、自分の力でもう一度できるかどうかです。
6. 紙とデジタル、結局どちらが学力を伸ばすのか?
保護者の方が最も気になるのは、この点だと思います。
しかし、紙とデジタルのどちらか一方が、すべての学習で優れているとは言い切れません。
例えば、英語のリスニングでは音声教材が役立ちます。
一方、数学の複雑な計算や証明では、紙に途中式や考え方を書き出すことが役立ちます。
また、長い文章を読む場合には、紙の方が読みやすいと感じる子どももいるでしょう。
大切なのは、教科や学習目的によって使い分けることです。
僕が学習指導で特に重視しているのは、次の3つです。
① 自分で考えること
答えをすぐに教えてもらうのではなく、まず自分で考える時間を持つ。
② 自分の力で解くこと
説明を聞いた後、何も見ずに問題を解けるか確認する。
③ 間違いから学ぶこと
間違えた問題について、なぜ間違えたのかを考え、もう一度取り組む。
この3つは、紙でもデジタルでも変わりません。
7. 海外でも紙の教科書が見直されている?
海外でも、学校教育におけるデジタル機器の使い方は議論されています。
特に、子どもの読解力や集中力、スクリーンを見る時間などが論点になっています。
ただし、海外でデジタル教材の使用を見直す動きがあるからといって、デジタル教材が学力低下の原因だと断定することはできません。
国によって教育制度も異なります。
重要なのは、デジタル化を進めること自体を目的にしないことです。
日本でも、子どもたちの学習状況や研究成果を確認しながら、適切な活用方法を考える必要があります。
8. 保護者が家庭学習で意識したい3つのこと
では、家庭ではどのような勉強を心がければよいのでしょうか。
① 動画を見たら、必ず問題を解く
解説動画を見て理解したら、そこで終わらせないことです。
実際に問題を解き、自分の力で答えを出せるか確認しましょう。
② 学校ワークを繰り返し活用する
定期テスト対策では、学校ワークを使った学習が重要です。
一度解いて終わりではなく、間違えた問題を解き直すことが大切です。
特に、答えを覚えるだけでなく、解き方や考え方を説明できるようにしましょう。
③ 勉強時間よりも、できるようになったことを確認する
「今日は2時間勉強した」
これだけでは、学習成果を十分に判断できません。
それよりも、
「昨日できなかった問題が、今日は一人で解けるようになった」
この変化を大切にしてほしいと思います。
保護者の方も、勉強時間だけでなく、何ができるようになったのかを聞いてみてください。
9. 現役塾長として考える、これからの教育
僕は、これからの教育で最も大切なのは、子どもたちが自分で考え、判断し、行動できるようになることだと考えています。
デジタル教材がどれだけ進化しても、最後に考えるのは子ども自身です。
わからない問題に出会ったとき、すぐに答えを検索するのではなく、まず自分で考えてみる。
間違えたとき、正解を確認するだけでなく、なぜ間違えたのかを振り返る。
こうした経験を積み重ねることで、学習する力は育っていくのだと思います。
紙の教科書が優れているのか。
デジタル教科書が優れているのか。
もちろん、その議論も必要です。
しかし、僕が本当に大切にしたいのは、その先にあるものです。
教科書が変わっても、子ども自身が考える力を育てるという教育の本質は変わらない。
便利な教材が増える時代だからこそ、自分の頭で考える時間を大切にしたいと思います。
まとめ|2030年からの教科書改革で大切なこと
2026年10月に示された文部科学省の指針素案では、2030年度以降、紙とデジタルを組み合わせた教科書を中心とする方向性が示されました。
完全デジタル型は一部の学年・教科に限定される見通しです。
ただし、今回の方針はデジタル教育の失敗を意味するものではありません。
紙にもデジタルにも、それぞれの良さがあります。
そして、保護者の方にぜひ知っていただきたいことがあります。
子どもの学力を伸ばすのは、教科書の形だけではありません。
自分で考え、問題を解き、間違いを修正しながら学ぶ。
その積み重ねこそが、学力を伸ばすために欠かせないものだと僕は考えています。
教科書がどのように変わっても、子どもたちが自分の力で学べるようにすること。
これからも、そんな教育を大切にしていきたいと思います。
参考資料
- 文部科学省「デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議(第6回)配布資料」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/mext_02468.html - e-Gov「デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等に関する指針の策定に向けて(素案)」意見募集
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&Mode=0&id=185001513
※本記事は2026年10月27日時点の情報に基づいています。今後、指針の内容が変更される可能性があります。
